ドイツ人にとって、一年のなかでもっとも重要な行事であるクリスマス。いまはそのクリスマスシーズン真っ盛りとあって、
方々にクリスマス市がたち、ショッピング街はイルミネーションで彩られ、デパートやお店はさかんにクリスマス商戦をくり
ひろげている。こんなときに街へ車で出かけると必ず渋滞にひっかかり、駐車場もなかなかみつからない。そして、道を歩け
ばどこから突然こんなに人が沸いたのか、と思うくらい混雑している。
だれもが家族・親戚や友人・知人のためにプレゼントを買い求めるのに必死だ。そして、クリスマス数日前ともなると今度は
食料品の買出しにラストスパートがかかる。ぐずぐずしているとメインディッシュのガチョウなどが売り切れてしまうので、
みな買い物リストを片手に殺気立つ。お店は、飲食店やガソリンスタンド以外、イヴ(12月24日)の午後から25、26日の丸々2日
半閉まってしまうので、買いそびれるともうアウトだ。
「アウト」になると、学生時代のわたしのような目にあう。ドイツの通貨がまだユーロではなく、マルクだった時代のことだ。
買出しを忘れ、銀行でお金を下ろすのも忘れ、気がついたらクリスマスなのに冷蔵庫も、お財布も空っぽだった。ついでに、
というか当然だがおなかも空っぽ。どうしたかというと、駄目もとで洋服ダンスのあらゆるポケットを探してみた。すると、
なんと奇跡的に10マルク紙幣がみつかったではないか! 当時の10マルクといえば、ファーストフードショップでハンバー
ガーにフライドポテト、それにドリンクつきのメニューが買える金額だ。さあ、どこでなにを食べよう?
ところが、凍てつく寒さの街へでて、人もまばらな歩行者天国をぶらぶらするうちに、わたしはあろうことか、映画館にふら
ふらとはいってしまった。頭も空っぽだった証拠だ。映画のチケット代は8マルク、残ったのはおつりの2マルク玉が1枚。2
時間後、久しぶりに映画をみて満足はしたものの、おなかはますますぺこぺこ。映画館の出口で、2マルクでなにが買えるか思
案していると、よろよろと人影が近づいてきた。
ぼさぼさのひげを生やし、いかにもぼろをまとったホームレス。彼は、ほかでもないわたしにむかって手を差し出し、しわが
れた声で「1マルク、恵んでくれないかね?」といったのだ。「1マルク」!? その瞬間、わたしの頭のなかでなにかがぷつん
と切れ、手ににぎっていた2マルク玉を渡してしまったのでありました・・・。
ところで、このように「1マルク」などと、金額を指定していうのはドイツのホームレスの特徴なのだろうか? 具体的な額の
ほうが、もらう成功率が高いのだろうか? いずれにしろ、2002年元旦にマルクからユーロへと通貨が切り替わったとき、彼ら
の呼びかけもちゃんと「1ユーロ、恵んでくれない?」に切り替えていたっけ。すると、通りかかった高校生くらいの女の子が、
「1ユーロっていうのは2マルクの価値があるのよ。1マルクと同じじゃないわ」と、たしなめていた(当時の交換レートは1ユ
ーロが約1.96マルク)。
早いものでもうじき、ユーロ流通4周年を迎える。 © Sakae Kimoto |