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「猛スピードの親切」

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 ドイツのドライバーはどちらかといえば紳士的だ。もちろん例外はいつでもいるが、基本的にはマナーがきちんと
していて節度のある運転をする。こちらが割りこまなければいけない場合も、比較的あっさりと入れてくれるし、こ
っちがゆずってあげればたいてい感謝の合図をされる。救急車や消防車がきたときも、たとえどんな渋滞でも奇跡が
起こったかのようにさーっと道が開く。
 わたしが運転免許を取ったばかりのころも、そういうマナーに接して、大いに学ぶことができたように思う。ドイ
ツ人の親切さももちろん健在で、トランクがちゃんと閉まってなかったり、テールランプが切れていたり、冷却水タ
ンクから水が漏れているのに気がつかずに走っていたりしても、まわりがすぐさま懸命に知らせてくれる。トンネル
のなかでライトをつけ忘れていると注意され、トンネルを出たのにまだライトをつけっぱなしにしているとまた注意
される。「もうっ、いちいちうるさいんだから!」などといっていてはドイツで暮らしてゆけない。
 いつか、車が街中でいきなり故障してしまい、プロの助けをよぶ前にまずはじゃまにならない場所へ移動させねば
と無謀にもひとりで車を押そうとしたら、事態を察し、たちまち何台もの車から人が降りてきて、あっという間に車
道わきに車をどけることができた。その手際のいいことといったら…(すごく邪魔だったのだろうけど)!すばやい
助っ人たちは同じすばやさでそれぞれの車に戻り、瞬時にいなくなってしまったので、ろくにお礼もいえなかった。
 すばやいといえば、やはりその運転スピードもそうとうなものだ。もちろん、みなさま節度のある紳士・淑女でい
らっしゃるので法律的に許された区域に限るが。なにしろ、ドイツ人が誇りをかけてつくり、命をかけてメンテナン
スしているアウトバーン(高速道路)。オンボロ車に乗っていたって、それはそれはすばらしい走り心地。スピード
の出る高級車をもっていたらなおさらのこと、アクセルを全開にしてしまうだろう。
 「飛ばし屋」たちは、速度制限区域では息を潜めるようにおとなしく走っていても、「スピード制限解除」の標識が
視界に入るや、そのまま空へ飛び発ってしまうのでは、といういきおいで加速する。なんたって無制限にスピードを
出していいのだ、みなここで理性を失う。飛ばし屋が後方からくるときは、こちらのバックミラーに小さな光をぴか
ーっと点して存在を現したかと思うと、弾丸のように横をすり抜け、小さな点となって幻のように消えていく。レー
サーのシューマッハー氏は、「怖くないのですか?」という質問をされるたびに、「自転車で街中を走るほうがよほ
ど怖い」と答えたというが、飛ばし屋たちも、きっとみなそうなのだろうか?
 ところで、いつかこんなニュースを読んだことがある。ある外国人の車がアウトバーンで故障し、立ち往生してい
ると、親切なドイツ人が次のサービスエリアまで牽引してくれると申し出た。さすがドイツ人、でも、ここまではよ
くある話。ところがこのドイツ人、牽引しているくせに ―― 追い越しと車線変更をしながら ―― なんと、時
速160キロの猛スピードで走行したというではないか!いったい、なに考えてんだか。しかし、ここでまた「さす
がドイツ人」といえなくもない。思うにこれは、ドイツ人の親切さと、アウトバーンではついアクセルを踏みこんで
しまう性分(?)とがみごとに融合したエピソードといえるのではないだろうか。
 が、こんなことをいってる場合ではなかった。暴走したその車はついには、工事現場に激突してしまったそうだか
ら。車は二台とも大破したものの、両ドライバーとも怪我をせずにすんだのは奇跡的だったらしい。それにしても気
の毒なのは、恐怖の走行を味わった外国人である。きっと、ドイツ人の親切、とくにその猛スピードぶりにはこりご
りしてしまったことだろう。                             © Sakae Kimoto



旧東独領のアウトバーンは劣悪だったが、統一後、ずいぶん改善された。

ベルリンに入るとき、街のシンボルである熊の像が迎えてくれる。 かつてここは、東独領土から西ベルリンに入る個所で厳しい検問所があった。

ベルリンをまっすぐ横断する6月17日通り。背景は戦勝記念塔(ジーゲスゾイレ)、 そのまま行くとブランデンブルク門に出る。

街中にある巨大な五階建てのカー・ショールーム。

ショールームの一角にある、子供用の「自動車教習所」。小型電動カーを実際に運転し、交通ルールを学べる。
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